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広島地方裁判所 昭和54年(行ウ)11号 判決

原告 株式会社 川田鉄工所

被告 広島県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  双方の申立

原告は、「被告は、原告に対し、金四二、〇四二、九八〇円並びに内金三七、三二二、六〇〇円に対しては昭和四九年一〇月八日から、内金四、七二〇、三〇〇円に対しては同年一二月一一日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告は、主文同旨の判決を求めた。

二  原告の請求原因

(一)  原告は、自動車部品の製作等を業とする株式会社であるが、昭和三五年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの八事業年度分(一事業年度は前年の五月一日から翌年の四月三〇日までの一年間)の法人税について海田税務署長に対し申告納付するとともに、同じく法人県民税・事業税について広島県海田県税事務所長に対し申告納付した。

(二)  ところが原告は、海田税務署長から昭和四一年三月二六日から昭和四六年六月一六日までの間に右八事業年度分の法人税について増額の更正処分を受けたので、海田県税事務所長に対し、昭和五〇年法律第一八号による改正前の地方税法(以下単に地方税法というときはこれを示す)第五三条第三項、第七二条の三三第三項の規定により修正申告が義務づけられているところから、右八事業年度分の法人県民税・事業税について、昭和四一年四月二五日から昭和四八年三月三一日までの間に、修正申告をするとともに(但し、一部の事業年度については更正処分を受けている)、法人県民税・事業税等を追加して納付した(その納付状況については別紙(一)ないし(八)の「税目等」及び「過納金」欄に各記載のとおりである)。

(三)  しかし、海田税務署長による右増額更正処分は、昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分については昭和四九年七月一九日にこれを取消す旨の判決が確定し、昭和三八年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの四事業年度分については昭和四九年八月七日に海田税務署長によつて取消され、昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分については昭和四九年一〇月二五日に国税不服審判所長の裁決によつて取消された。

(四)  そこで原告は、海田県税事務所長に対し、地方税法第五三条の二、第七二条の三三の二第二項に基いて、昭和四九年八月二七日、昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分の法人県民税・事業税について更正の請求をした。その後同所長は、昭和四九年九月二日右七事業年度分の法人県民税・事業税について滅額の更正をし、さらに同年一二月七日には昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分の法人県民税・事業税についても滅額の更正をした。

(五)  右滅額更正に伴い海田県税事務所長は、過納金についてはすべて還付したが、これに対する還付加算金については、同所長のした増額更正処分によつて納付額が確定したもの並びに過少申告加算金及び重加算金についてはいずれも地方税法第一七条の四第一項第一号を、その他の過納金については同条の四第一項第四号、同法施行令第六条の一五第一項第一号並びに昭和四四年法律第一六号による改正前の地方税法第一七条の四第一項、同改正附則第三条を各適用のうえ、(1)昭和四九年一〇月七日と同年一一月二九日の二回にわたり昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分の、(2)昭和四九年一二月一〇日に昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分の各法人県民税・事業税等に関する過納金及び還付加算金の支出決定をし(各税目等ごとの支出決定日は別紙(一)ないし(八)の原告主張による場合の計算期間の末日である)、還付加算金としては総額一二、〇二四、七二〇円を原告に還付した。

(六)  しかしながら、被告による還付加算金の計算は法の適用を誤つたものであり、次に述べるとおり、本件については地方税法第一七条の四第一項第一号を適用し、各過納金の還付の日の翌日から還付のための各支出決定の日までの期間について計算されるべきである。

1  昭和四四年法律第一六号による改正前の地方税法第一七条の四によると、すべての過納金について納付又は納入された日の翌日から還付のため支出を決定した日までの期間に応じて還付加算金を付すべき旨を定めていたが、右改正後は過納金の発生原因(納税者側に責があるか否か)によつて加算金算定の始期を異ならしめ、さらに昭和五〇年法律第一八号によつて、本件の場合のように国の税務官署の更正に伴い義務的に修正申告した場合には納付又は納入の日の翌日から支出決定の日まで還付加算金を付すべき旨が確認的に明文化された。

2  なお、本件のように原処分が訴訟等で争われている場合には国税通則法第七一条第一号によつて判決があつた日より六月の期間内は更正が可能であるところ、地方税法第一七条の四第一項第一号にいう「更正」とは、国の税務官署の行なう更正を含むもの、或いは国の税務官署による更正に伴いこれと連動してなされる義務的な修正申告は、実質的にみて、地方公共団体の側において行なう更正と同視されるものと解すべきである。

3  そうすると、原告に対して還付されるべき加算金は、別紙(一)ないし(八)の「原告主張の還付加算金の計算」欄に記載のとおり算出され、総額五四、〇六七、七〇〇円となる。

(七)  仮にそうでないとしても、地方税法第一七条の四第一項第四号、同法施行令第六条の一五第一項第二号が適用されるべきものである。すなわち、原告は法人税にかかる増額更正処分が取消されるや直ちに、海田県税事務所長に対し更正の請求をし、同所長はこの更正の請求に基いて減額の更正をしたのであるが、地方税法第一七条の四第一項第二号における更正の請求というのは同法第二〇条の九の三第一項の通常の更正の請求の場合を意味し、原告がしたのは同法第五三条の二、第七二条の三三の二第二項による更正の請求の特例に基く更正の請求であつて、同法施行令第六条の一五第一項第一号において除外される場合の更正の請求とは正にこれを意味するものと解するのが法の合理的な解釈であるから、結局地方税法第一七条の四第一項第四号、同法施行令第六条の一五第一項第二号が適用されるべきこととなる。そのことと昭和四四年法律第一六号の改正附則第三条の適用によつて還付加算金は前記(六)の場合と同様となる。

(八)  仮にそうでないとしても、被告が原告に対し過納金を納付させたことは、いわゆる公法上の不当利得であるから、被告は原告に対し少くとも各過納金納付の日の翌日から還付支出決定の日までの期間については各過納金に対する民法所定の年五分の割合による還付加算金を支払うべき義務がある。そうすると、過納金の納付状況は別紙(一)ないし(八)の「税目等」及び「過納金」欄に記載のとおりであり(但し、別紙(八)の過少申告加算金、重加算金は除く)、これに対する還付加算金の計算に関する計算期間、基礎金額は別紙(一)ないし(八)の「原告主張の還付加算金の計算」欄に記載のとおりであるから(但し、別紙(二)の法人県民税延滞金に関し、計算期間として「44.12.3~49.10.7(1770)」とあるのを「44.11.2~49.10.7(1801)」と、別紙(六)の法人事業税に関し、計算期間、基礎金額として「43.12.3~49.9.30(2128)」「49.10.1~49.10.7(7)」「8,561,000」「1,192,000」とあるのを「43.12.3~49.10.7(2135)」「8,561,000」と、別紙(七)の昭和四三年一二月二日納付の法人県民税に関し、計算期間として「(33)」とあるのを「(2135)」と、別紙(八)の昭和四七年一月三一日納付の法人事業税に関し、計算期間として「(1044)」とあるのを「(1043)」と各訂正する。)、その還付加算金は総額三七、一九九、四〇〇円となる。

(九)  よつて、原告は、被告に対し、地方税法第一七条の四に基き、既に支払いを受けた一二、〇二四、七二〇円を控除した残額四二、〇四二、九八〇円並びに原告の申立に記載のとおり各内金に対する本件過納金の還付にかかる各支出決定の日の翌日から各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、予備的に公法上の不当利得として、既に支払いを受けた一二、〇二四、七二〇円を控除した残額二五、一七四、六八〇円及びこの算定の基礎となる各過納金の還付にかかる各支出決定の日の翌日から各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  請求原因に対する被告の答弁

(一)  請求原因(一)ないし(五)の事実は認める。同(六)ないし(八)は争う。

(二)  国税通則法第七一条第一号は、判決等において原処分が取消され異動したことに伴い、その取消しの対象となつた年分又は事業年度分以外の年分又は事業年度分について更正決定等をすべき場合における賦課権の期間制限の特例規定であり、争訟の対象となつている年分又は事業年度分について適用される規定ではない。

(三)  原告が納付した過納金は一種の不当利得と考えられるが、過納金の還付に関する地方税法第一七条から第一七条の四までの規定は民法上の不当利得に関する諸規定に対する特別規定と解すべきものであるから、還付加算金は地方税法第一七条の四の規定によつて計算すべきである。

(四)  なお仮に還付加算金が納付の日の翌日から支出決定の日までの期間について計算されるとした場合、還付加算金の計算関係並びにその数額が別紙(一)ないし(八)の「原告主張の還付加算金の計算」欄に記載のとおりであることは認める。

四  被告の主張

(一)  原告の昭和三五年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの八事業年度分にかかる原告による確定申告から海田県税事務所長による還付加算金の還付に至る事実の経過は別表(一)ないし(八)に記載のとおりである。

(二)  本件還付加算金の計算の基礎となる過納金は、原告が国の法人税の更正を受けたことに伴い、地方税法第五三条第三項及び第七二条の三三第三項の規定によつて海田県税事務所長に対し修正申告し、納付すべき額が確定した税額にかかるものであるから、地方税法第一七条の四第一項第一号の過納金ではなく、第四号の過納金に該当するものである。そこで同所長は、本件還付加算金の計算期間の始期を、過納となつた日として政令で定める日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日、すなわち地方税法施行令第六条の一五第一項第一号に規定する「減額更正のあつた日」の翌日から起算して一月を経過する日の翌日とし、なお昭和四四年法律第一六号による改正前の地方税法第一七条の四第一項によると、過納金の還付に当つて付する還付加算金の計算は、過納金の発生の理由いかんにかかわらず納付又は納入の日の翌日から日数計算をすることとされていたので、昭和四四年四月八日以前の期間に対応する計算については昭和四四年法律第一六号の改正附則第三条の規定により納付された日の翌日から起算されることとなり、そこで本件還付加算金の計算に当つて昭和四四年四月九日から、減額更正の日の翌日から起算して一月を経過する日までの期間につき還付加算金を付さないこととして、別紙(一)ないし(八)の「被告主張の還付加算金の計算」欄記載のとおり還付加算金を計算して合計額一二、〇二四、七二〇円を原告に還付したもので、同所長のした計算方法は正当である(但し、現実には一部過算のため一〇、七〇〇円が過払いとなつている)。

(三)  なお海田県税事務所長が昭和四九年九月二日に行なつた昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分にかかる法人県民税・事業税の減額更正は、原告による更正の請求によるものではなく、職権により行なつたものである。

なぜなら、地方税法第五三条の二及び第七二条の三三の二第二項による更正の請求に基き減額更正をしたものとすれば、当該処分の基因となつた海田税務署長の昭和四九年八月七日の法人税の増額更正処分の取消処分が地方税法第五三条の二及び第七二条の三三の二第二項に規定する「国の税務官署の更正」ということになるが、本件の場合右取消処分は法定申告期限の翌日から起算して五年を経過した日以後に行なわれたこととなるので、国税通則法第七〇条第二項の更正の期間制限に牴触することとなり、矛盾を起すこととなる。したがつて、右取消処分は「国の税務官署の更正」ということはできず、更正以外の取消処分と認めざるを得ないので、地方税法第五三条の二及び第七二条の三三の二第二項の規定の適用はなく、海田県税事務所長の更正は職権により行なつたこととなる。なお昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分にかかる法人税の増額更正処分の取消については、判決によつて取消されたものであり、「国の税務官署の更正」でないことは明らかである。

(四)  仮に原告の更正の請求に基いて減額更正処分が行なわれたとしても、当該減額更正により生じた過納金に係る還付加算金の計算は、地方税法第一七条の四第一項第四号及び同法施行令第六条の一五第一項第二号の規定ではなく、地方税法第一七条の四第一項第二号の規定が適用され、その更正の請求があつた日の翌日から起算して三月を経過する日と、更正の請求に基く減額の更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日とのいずれか早い日の翌日が還付加算金の計算期間の始期となるところ、本件の場合は減額の更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日が還付加算金の計算期間の始期となり、これは地方税法第一七条の四第一項第四号及び同法施行令第六条の一五第一項第一号の規定による還付加算金の計算期間の始期と同一となるので、本件還付加算金の算定上、実質的に被告の主張と何ら差異を生じない。なお地方税法第五三条の二及び第七二条の三三の二第二項による更正の請求も同法第一七条の四第一項第二号にいう更正の請求に該当するものである。

五  被告の主張に対する原告の答弁

被告の主張(一)の事実及び同(二)中被告の主張が仮に正しいとした場合の還付加算金の計算関係は認めるが、その余は争う。

六  証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因(一)ないし(五)の事実並びに被告の主張(一)の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分の法人税に係る海田税務署長がした増額更正処分は判決によつて取消されたものであり、又成立に争いのない甲第六号証の一ないし四並びに弁論の全趣旨によると、昭和三八年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの四事業年度分の法人税に係る海田税務署長がした増額更正処分は、右判決が同署長のした前記更正処分を取消すとともに、青色申告承認取消処分をも取消したことに伴い、同署長によつて取消されたこと、そして昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分の法人税に係る同署長がした増額更正処分も、右判決の確定に伴い、国税不服審判所長がした裁決によつて取消されたことが認められる(但し、裁決によつて取消されたことは当事者間に争いがない)。ところで地方税法は、各事業年度の所得を課税標準として法人税の中間申告書、確定申告書を提出すべき法人は、その申告書の提出期限までに、自治省令で定める様式によつて、(1)その申告書に係る法人税額、(2)(1)の法人税額を課税標準として算定した法人税割額、(3)均等割額、(4)その他必要な事項を記載した申告書を道府県知事に提出し、その申告した道府県民税額(中間申告によりすでに納付が確定している税額があればこれを控除した額)を納付しなければならないとし(第五三条第一項前段)、法人税の申告書を提出する義務のある法人が、法人税の修正申告書を提出した場合又は法人税の更正若しくは決定の通知を受けた場合には、その修正申告によつて増加した法人税額又は更正、決定によつて納付すべき法人税額を納付すべき日までに、自治省令で定める様式によつて、その修正申告又は更正、決定後の法人税額、これを課税標準として算定した法人税割額その他必要な事項を記載した申告書を提出し、その申告した道府県民税(すでに納付すべきことが確定している税額があればこれを控除した額)を納付しなければならないとし(第五三条第三項)、法人の事業税の課税標準は、電気供給業、ガス供給業、生命保険事業及び損害保険事業にあつては、各事業年度の収入金額、その他の事業にあつては、各事業年度の所得及び清算所得であるが(第七二条の一二)、各事業年度の所得とは、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額であつて、その具体的な算定は、原則として、各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて行なうものとし(第七二条の一四第一項本文)、又法人の事業税の申告書を提出した所得金額課税法人は、その申告に係る事業税の計算の基礎となつた事業年度に係る法人税の課税標準について税務官署の更正又は決定を受けたときは、その税務官署が更正又は決定の通知をした日から一月以内に、その更正又は決定に係る課税標準を基礎として修正申告書を提出するとともに、その修正により増加した事業税額を納付しなければならないとしている(第七二条の三三第三項)のであるが、原告は、海田税務署長から前記八事業年度分の法人税について増額更正を受けたことに伴い、右八事業年度分の法人県民税・事業税について海田県税事務所長に対し修正申告をし、右増額更正が取消されたことに伴い、そのうち昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分の法人県民税・事業税について同所長に対し更正の請求をし、又同所長も前記八事業年度分に係る法人県民税・事業税について減額更正をしている。

二  さて、本件においては法人県民税・事業税が右のとおり減額されたことによつて生じた過納金に対して加算されるべき還付加算金算定についての適用法条が主要な争点となつているので、まずその計算期間を規定している地方税法第一七条の四第一項の規定の趣旨等を概観してみることとする。

昭和四四年法律第一六号による改正前においては、過納金を還付し又は充当する場合、一律に、その過納金が納付され又は納入された日の翌日から、その還付のための支出を決定した日又は充当をした日までの期間に応じ、日歩二銭の割合で還付加算金が付されることとなつていたのであるが、右改正によつて、事業税以外の申告納付又は申告納入に係る税についても更正の請求制度が設けられるとともに、原則としてその請求の期間は法定納期限から一年とされ、そのため税金の納付のときからかなり遅れて更正の請求が行なわれることが予想されたこと、又過納金は実質的には不当利得金と目すべきものであるところ、一般の不当利得の法理によれば、善意の受益者は利益の存する限度において利得を返還すれば足り、利息を付する必要がないとされていること等を勘案して、原則として、納付し又は納入すべき地方税の額の確定が納税者の申告により行なわれたか否かによつて過納金を区分し、その区分に応じて還付加算金の計算期間の始期を定めることとされたのである。すなわち、地方税法第一七条の四第一項各号についてみるのに、その第一号において、更正、決定若しくは賦課決定又は加算金の決定により納付し又は納入すべき額が確定した地方公共団体の徴収金(当該徴収金に係る延滞金を含む)に係る過納金、すなわち地方公共団体のした税額確定行為により確定した地方公共団体の徴収金の額が過大であつたことによつて生じた過納金については、その過納金に係る地方公共団体の徴収金の納付又は納入のあつた日の翌日が、その第二号において、更正の請求に基く更正(その請求に対する処分に係る不服申立てについての決定若しくは裁決又は判決を含む)により納付し又は納入すべき額が減少した地方税(当該地方税に係る延滞金を含む)に係る過納金、すなわち納税者又は特別徴収義務者がした申告により確定した税額が過大であつたことによつて生じた過納金については、その更正の請求があつた日の翌日から起算して三月を経過する日とその更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日のいずれか早い日の翌日が、その第三号において、申告書又は修正申告書の提出によつて納付すべき額が確定した所得税につき行なわれた更正に基因して住民税の所得割又は個人の事業税についてされた賦課決定により納付し又は納入すべき額が減少した地方税(当該地方税に係る延滞金を含む)に係る過納金、すなわち納税者が所得税において申告した所得を基準として賦課決定をした税額が過大であつたことによつて生じた過納金については、その賦課決定の基因となつた所得税の更正の通知がされた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日が、その第四号において、前三号に掲げる過納金以外の地方団体の徴収金に係る過納金にして、申告書の提出により納付し又は納入すべき額が確定した地方税(当該地方税に係る延滞金を含む)に係る過納金でその納付し又は納入すべき額を減少させる更正(更正の請求に基く更正を除く)により生じたものについては、その更正があつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日が、その他の過納金については、その納付又は納入があつた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日が(同法施行令第六条の一五第一項)、それぞれ還付加算金の計算期間の始期とされた。

三  そこで本件過納金に係る還付加算金の計算期間の始期について検討する。

(一)  まず被告のした更正に基因するもの並びに過少申告加算金及び重加算金に対しては、地方税法第一七条の四第一項第一号により、その納付の日の翌日から還付加算金が付されるべきことは明らかである。

(二)  次に、海田税務署長がした法人税に係る増額更正処分に伴い、原告が海田県税事務所長に対してした法人県民税・事業税についての修正申告に基因して生じた過納金に対する還付加算金について検討する。

1  昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分について

昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分の法人税に係る海田税務署長がした増額更正処分は判決によつて、又同年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの四事業年度分の法人税に係る同署長がした増額更正処分は同署長によつて、それぞれ取消されたこと、又これら取消に伴い原告が右七事業年度分の法人県民税・事業税について海田県税事務所長に対し更正の請求をしたことは前説示のとおりであるが、この原告がした更正の請求がいかなる意味を有するものであるのかを検討するのに、地方税法第五三条の二は、法人県民税につき、同法第五三条第三項により修正申告書を提出した法人は、当該申告書に係る法人税割額の計算の基礎となつた法人税の額について国の税務官署の更正を受けたことに伴い当該申告書に係る法人税割額の課税標準となる法人税額又は法人税割額が過大となる場合には、国の税務官署が当該更正の通知をした日から二月以内に限り、自治省令の定めるところにより、当該法人税額又は法人税割額につき、同法第二〇条の九の三第一項の規定による更正の請求ができるものとし、又同法第七二条の三三の二第二項は、法人事業税につき、申告書又は修正申告書を提出した所得金額課税法人は、その申告又は修正申告に係る事業税の計算の基礎となつた事業年度の法人税の課税標準について国の税務官署の更正又は決定を受けたことに伴い、その申告又は修正申告に係る所得、清算所得又は事業税額が過大となる場合には、国の税務官署が当該更正、決定をした日から二月以内に限り、その所得、清算所得又は事業税額につき、同法第二〇条の九の三第一項の規定による更正の請求ができるものとしている。

そこで、まず昭和三八年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの四事業年度分の法人税に係る海田税務署長がした増額更正処分を取消す旨の処分が右の国の税務官署の更正に該当するか否かを検討するのに、国税通則法第七一条第一号によれば、更正決定等に係る訴えについての判決による原処分の異動に伴つて課税標準等又は税額等に異動を生ずべき国税(当該判決に係る国税の属する税目に属するものに限る)で当該判決を受けた者に係るものについての更正は当該判決があつた日から六月間は更正をすることができるものであるところ、前説示のとおり、海田税務署長による増額更正の取消は青色申告承認取消処分が取消されたことに伴つてなされたもので、直接には右の国税通則法の規定に該当しないものではあるが、このような場合も、課税の公平を期するために当然除斥期間の延長が認められるべく、右規定が類推適用されるものというべきである。そうすると、海田税務署長による右取消処分は、いわば当初の増額更正分を零とする減額更正ともいうべきものであり、したがつて、これに伴つて原告がした法人県民税・事業税についての更正の請求は、地方税法第五三条の二及び同法第七二条の三三の二第二項によるいわゆる特例による更正の請求に該当することとなり、この請求がなされたのが昭和四九年八月二七日であり、海田県税事務所長による減額更正が同年九月二日になされたことが当事者間に争いのないところからすると、海田県税事務所長による昭和三八年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの事業年度分の法人県民税・事業税についてなされた減額更正は特例による更正の請求に基くものというべきで、したがつて、右四事業年度分の原告がした法人県民税・事業税についての修正申告に基因して生じた過納金に対する還付加算金については、地方税法第一七条の四第一項第二号が適用されるべきこととなる。

次に、昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分の法人税に係る海田税務署長がした増額更正処分を取消す旨の判決をどのように評価するかであるが、文言上、これが地方税法第五三条の二及び同法第七二条の三三第二項にいう国の税務官署の更正に該当しないことは明らかである。しかしながら、国の税務官署による更正の場合には特例による更正の請求が認められるのに、判決によつて国の税務官署による更正が取消された場合には地方団体による自主的な更正を待つほかない(地方税法第一七条の六第二項第三号参照)というのでは余りにも片手落ちというほかなく、したがつて国の税務官署による法人税にかかる増額更正を取消す旨の判決があつた場合には、国の税務官署の更正に準じて前記の特例による更正の請求に関する規定が類推適用されるものというべきである。そして、右判決が昭和四九年七月一九日に確定し、それに伴い原告が同年八月二七日に更正の請求をし、海田県税事務所長が同年九月二日に減額更正をしたことが当事者間に争いがないところからすると、昭和三五年五月一日から昭和三八年四月三〇日までの三事業年度分の法人県民税・事業税についてなされた海田県税事務所長による減額更正は特例による更正の請求に基くものというべきで、やはり右三事業年度分の原告がした法人県民税・事業税についての修正申告に基因して生じた過納金については、地方税法第一七条の四第一項第二号が適用されるものというべきである。

2  昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分について

右事業年度分の法人税に係る海田税務署長が昭和四六年六月一六日にした増額更正処分が昭和四九年一〇月二五日国税不服審判所長がした裁決によつて取消されたことに伴い、海田県税事務所長が同年一二月七日法人県民税・事業税について減額更正をしたこと(地方税法第一七条の六第二項第三号参照)、しかしこれについては原告による更正の請求はなかつたことは当事者間に争いがないから、右一事業年度分の原告がした法人県民税・事業税についての修正申告に基因して生じた過納金については、地方税法第一七条の四第一項第四号、同法施行令第六条の一五第一項第一号が適用されることとなる。

3  そうすると、昭和三五年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの七事業年度分の原告がした法人県民税・事業税についての修正申告に基因して生じた過納金については、更正があつた日(昭和四九年九月二日)の翌日から起算して一月を経過する日の翌日(同年一〇月三日)が還付加算金の計算期間の始期となり、又昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの一事業年度分のそれについても、同様に、更正があつたのは昭和四九年一二月七日であるから、昭和五〇年一月八日から還付加算金が付されるべきこととなる。

(三)  以上によると、被告主張に従つた場合の還付加算金の計算関係については争いがないのであるから、本件過納金に係る還付加算金の計算期間、基礎金額、還付加算金額は、結局別紙(一)ないし(八)の「被告主張の還付加算金の計算」欄に記載のとおりとなり(なお昭和四四年法律第一六号の改正附則第三条但書により、同法施行日(同年四月九日)前の期間に対応する還付加算金の計算については、なお従前の例によるとされるので、過納金納付の日から昭和四四年四月八日までは一律に還付加算金が付されることとなる。)本件還付加算金は総額一二、〇一四、〇二〇円となる。

四  ところで原告は、本件還付加算金については地方税法第一七条の四第一項第一号が適用されるべきであり、仮にそうでないとしても同第四号、同法施行令第六条の一五第一項第二号が適用されるべきであり、さらにそうでないとしても過納金を納付させたことが不当利得に該当するとして、いずれも納付の日の翌日から還付加算金が付されるべきである旨主張するので、順次検討する。

(一)  原告は、地方税法第一七条の四第一項第一号にいう「更正」とは、国の税務官署の行なう更正を含むもの、或いは国の税務官署による更正に伴いこれと連動してなされる義務的な修正申告は、地方公共団体の側において行なう更正と同視されるべきである旨の主張をするのであるが、地方税法が地方公共団体の機関が行なう更正と国の税務官署が行なう更正とを区別して用い、単に「更正」というときは地方公共団体の機関が行なう更正を意味することは明らかであるし、又本件において原告がした法人県民税・事業税についての修正申告が義務的なものであるとしても、これをもつて地方公共団体の側において行なう更正と同視することができないことは明らかであるというべきである。

ところで昭和五〇年法律第一八号による改正後の地方税法第一七条の四第一項第一号においては、法人税にかゝる更正に伴つて義務的に行なわれた申告により税額が確定した場合の過納金についての還付加算金の計算の始期を地方公共団体の機関による更正、決定により税額が確定した場合と同列に取扱うことにしており、これはその申告が形式はともかく実質的に地方公共団体の機関による更正、決定による税額の確定と異なるところがないことからすると、もつともな改正と考えられるのであるが、だからといつて明文のなかつた改正前において改正後の規定と同様に解することはできない。もともと昭和四四年法律第一六号による還付加算金の計算方法の改正は一般の不当利得の法理を考慮し、地方公共団体が過納金の発生について善意であるか否かを区分して還付加算金を計算することとしたのであるが、そうした考えに立てば、法人税にかゝる更正に伴つて申告され納付された過納金であつても、国と人格を異にする地方公共団体とすれば、自らが税額確定の処分をしたものではないという意味において、過納金の発生について善意であつたとして当然であるし、又地方税法第一七条の四第一項が、申告書又は修正申告書の提出によつて納付すべき額が確定した所得税の課税標準を基準として課せられた個人の住民税、個人の事業税について過納金の還付加算金の起算日に関する特則を設け、所得税の更正の通知がされた日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日を起算日としながら(同項第三号)、国税に準拠する法人税割、法人事業税については同種の規定をおいていないのも、個人の住民税、個人の事業税が実質的には所得税の申告により税額が確定するものの、形式的には賦課決定により税額が確定するのに対し、法人税割、法人事業税はあくまで申告納付を建前としており、したがつて納税者からの更正の請求を可能としている点の差異に基くものと考えられるので、法人税割、法人事業税について地方税法第一七条の四第一項、第三項と同旨の規定をおかなかつたことに合理性がないともいえない。

要するに国の税務官署の更正に伴い修正申告書を提出し、税額が確定する場合と地方公共団体の機関による更正により税額が確定した場合とを同様に取扱うか否かは立法政策の問題であるから、昭和五〇年法律第一八号による改正前において改正後と同様に解することはできない。

(二)  次に、地方税法第一七条の四第一項第二号にいう「更正の請求」からは同法第五三条の二及び同法第七二条の三三の二第二項による特例による更正の請求が除外されており、同法施行令第六条の一五第一項第一号において除外されている更正の請求は右の特例による更正の請求を意味する旨の原告の主張であるが、特例による更正の請求制度は、法人県民税については、昭和四四年法律第一六号の改正により、地方税法第一七条の四第一項の改正とともに設けられたものであつて、地方税法第一七条の四第一項第二号にいう「更正の請求」から特例による更正の請求が特に除外されたものとは解し難く、したがつて、同法施行令第六条の一五第一項第一号が更正の請求に基く更正を除外したのは、単に、更正の請求に基く更正の場合には地方税法第一七条の四第一項第二号が適用されることを注意的に明らかにしたものと解されるのである。

(三)  又、過納金が実質的には不当利得金と目すべきものであることは、前記二で述べたとおりであるが、過納金の還付に関する地方税法の規定は民法上の不当利得との関係ではその特則というべきものであり、これについて、さらに民法の不当利得規定が適用になることはないものというべきである。

五  以上によると、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 大前和俊 吉田徹)

別紙(一)~(八)、別表(一)~(八)〈省略〉

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